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機械音痴の人って。。。
認知心理学の分野で、機械音痴についての研究があります。
たとえば、ビデオデッキで番組予約が出来ない人、”この6枚を15セット両面コピーしてホチキス留めしておいて下さい” といわれて複写機の前で固まってしまう人…。
こうした人たちの研究です。
彼らを機械音痴にしている原因はいったい何でしょうか。
…ずっと昔、研究室で何気なく手に取った認知心理学の大学紀要にその話が載っていました。
わたしが目を通したのは元の論文そのものではなく、その紹介のような記事でしたが、そこに書かれていたことはとても印象的でそれを読んだときの研究室の様子もはっきり覚えています。
彼らが複写機の前で固まってしまう原因ーーー それは、”一度にやろうとするから”。
もうちょっと専門的にいうと ”課題分割ができていない” とか ”課題の手順化ができていない” という表現を使うようですが、わたしには前述の表現がぴったりきます。
つまりこういうことです、コピーであれば、
- 両面印刷の設定、
- 印刷部数の設定、
- ソーターの設定などの後、
- 原稿をセットして印刷ボタンを押す、
- 出てきたコピーを取り出して6枚づつホチキス留めする…
というそれぞれのステップがある筈ですが、機械音痴の人はこの分割が上手くいかないようなのです。
何故そうなるかというと、”いっぺんにやろうとするから”、結局どこから手を付けたらいいか分からずに途方にくれてしまうのです。
算数音痴の理由
算数の問題が解けない原因はさまざまありますが、そのひとつに機械音痴の人と同様、”いっぺんに考えようとする” ことが挙げられます。
あるいは ”一足飛びに、こたえ(だけ)を出そうとする” 心性といいますか。
ステップを踏んで順に考え進める、というのが難しいのです。
もっともこれは小学生に限ったことではなく、大人もそうですし、そもそも人類はそれほど論理的思考に馴染んでいるものではないらしいです。だからこその訓練なのでしょう。
逆にいうと、受験算数のような複雑な問題を解けるというのは課題分割しそれを手順化できているから、と(或る側面からは)いえます。
わたし自身のことばで言いなおすと、”ステップを踏んで考え進めていくことができる” となります。
算数の基本的な問題は解くロジック(ステップ)が決まっていて、まずはそれを身につけることを目指すのが普通です。
ところが、そのロジックそのものの学習を阻害する夾雑物のような要因があります。
それが、”いっぺんに考えようとする”、”一足飛びに、こたえ(だけ)を出そうとする” 心性で、こういう魔術的思考を脱し問題解法の本質に頭脳リソースを使うようしなければなりません。
明利学舎では、単元によっては以下のような工夫をしています。ちょっとしたことなのですが、受験算数のエートスともいうべき ”正確に考え進める心構え” を後押しするのに大変有功です。
端的に記すと以下の2点です。
1)論理展開の起点をノートに明記すること。
いわば、複写機の前で固まってしまいがちな人に、”まずは両面印刷のボタンを押す” と最初の一歩を脳裏に刻印することです。
2)変数の区別を明示すること。
たとえば。。。
ニュートン算を例に挙げて示してみましょう。
ニュートン算とは受験算数の代表的な問題で、たとえば次のような問題です。
窓口が3つある切符売り場に、つぎつぎと客が切符を買いにいきます。客の人数が60人になったとき、切符を売り始めます。切符を買いに来る人数は毎分一定で、1つの窓口で売る切符の枚数も毎分一定です。窓口を1つ開けると、15分間で窓口で切符を買う客がいなくなり、窓口を2つ開けると、5分間で窓口で切符を買う客がなくなります。ただし、切符は1人1枚ずつ買うものとします。
(1)1つの窓口では、毎分何枚の切符を売りますか。
(2)窓口を3つ開けると、何分間で窓口で買う客がいなくなりますか。
(出典『中学入試 受験全解』p.323)
上記のような問題を教室で練習(とくに導入直後)するときは、まず、自発的に以下のようにノートに記せるよう促します。
1つの窓口が1分で販売できる人数を、①とする。
1分で新しく増える客数を、△の1とする。
この書き出しに、先の2点が示されています。
1)課題の手順化を促進する”起点”の明記
見落とされがちですなのですが、ある種の問題においては(このニュートン算もそう)手順の開始位置である ”解き始めの起点” をしっかり身につけるのが有功です。
”有功” というのは、余計な夾雑物に惑わされにくい、この場合なら何処から手を付けたらよいか分からないまま時間が過ぎていくのを防止できる、ということです。
何故有効かというと、あとは解法のロジックに集中することができるからです。
ごく普通の小学生にとって、ニュートン算というのは解法が難解です。その本質は受験算数で旅人算と呼ばれる速さの問題なのですが、その本質まで理解が至るというのに時間がかかります。
多くの転塾生(集団塾 ->明利学舎)を見ていると、カリキュラム上旅人算の学習は済みとなっていてもニュートン算の学習で使いこなせるようにまで理解が深まっていないのが普通です。
ですから、解法の中心になるロジックの学習に時間を充てるのが効率的なのです。
”どこから手をつけたらいいかまったく分からない” 状態で時間が過ぎていくのは多くの場合非効率的です。
論理の鎖を辿ることは、起点があって初めてできることなのです。
それに、起点が定まると残りは比較的考えやすくなります。最終的に答えが出る/出ないにかかわらず、よい問題練習となります(実力がついてきます)。
2)数学やプログラミングではあたりまえなのに算数で軽視されがちなこと
もうひとつは、扱う変数の区別をつけ、ことばで定義することです。
問題文中の或る量と別の或る量を混同しないように、①や△の1(実際のノート上では△のなかに1。PCで出ないのでこのように表記しています)のように区別して書き表します。
これをむき出しのただの”1” としていると、途中で何の1だか途中で分からなくなってしまいます。
曲がりなりにも数学学習を経てきた大人には、上掲問題の2つの速さが別物であること、変数で表せば、aとbとか、xとyとか、lとmとか、何にしろ異なる変数記号になることがわかります。
小学生は中学生風の正式な文字式は学習しませんから、必然的に①とか△の1とかあらわすのですが、これがないとどちらも ”1” なので(aとかbとか見た目からして違う記号ではない)、その分余計に意識して区別する必要があります。
これは受験算数のオーソドックスな記法で、多くの塾・講師が採用しています。
ところが、これが徹底されていることは珍しいです。
中学生のようにx,yなどと文字で明確に区別できない分、意識して書き分ける必要があるにもかかわらず、同じ 1を使いまわして平然としている受験生も多いです。
(それに数学には、求めたい未知数などにはx,多項式などの係数にはa,b,c、その他l,m,nにしろ、使う文字に慣用性があって理解し易くなっていま す。また、プログラミングの世界では変数名に、sytudent_name、postal-code、といった、”読んで分かる” 名前を付けるのが普通 です)
これでは、正確に考えることはできません。
1つの窓口が1分で販売できる人数を① で表し、
また逆に①とは1つの窓口が1分で販売できる人数であること、
1分で新しく増える客数を△の1で表し、
また逆に△の1とは1分で新しく増える客数であること、
こういう変数の定義を、おざなりのまま考えていてもそれが実を結ぶことはありません。
ニュートン算の場合、明利学舎では先のように、変数定義(大人であるこのブログ読者向けの言葉。授業ではこうした用語は使いません)からノートに記していくよう指導します。
これにより、大きさの定義をもとに、ロジックを追う/身につける実のある学習が可能となります。
算数得意な子/苦手な子
ニュートン算の解法そのものの解説は他サイトに譲りましょう。
ここでは、ロジックに集中するための工夫として2点お伝えしました。
さて以前、某有名中学受験専門塾の先生方のインタビュー集を読んだことがあります。
そこで、算数ができる子とそうでない子の違いとして、”論理の鎖を追えるか否か” とありました。
形式的に示すと、
Aを求めるためには、Bを求めればよい。Bを求めるためにはCが分かればよい。Cを知るには、DかEが分かればよい。ではDが求まるか考えてみよう。
といったものです。
そのときすでにこの仕事に就いていましたので、見ず知らずの人だけど同じ職についていると似た感想持つものなぁ、と感じたことを覚えています。
こうしたことを、算数がとくに得意でもない普通のお子様が身につけるようになるためには、上述のように学校算数とはまったく異なる訓練・異なる指導が必要なのです。
なお、誤解なきように申し添えておきますが、明利学舎では一律の指導は原則行いません。
起点と定義を最初にノートに書き記すというのも、それが必要かつ有功であるお子様に対してのアプローチです(それでも中位層の多くに当てはまるでしょう)。
超難関校受験者は別アプローチ若しくは途中のステップ省略で先に進みます。ひとりひとりに最適のアプローチが取れるから無理だと思った志望校も合格できるのです。
上掲問題のこたえ:(1)8枚。 (2)3分間。
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